はじめまして。150代トップテノールの三代健斗と申します。今年も山茶花がいっせいに咲き出す季節となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。去る10月8日、東京芸術劇場にてWAGNER FEST 2023が開催されました。本来、初回開催予定であった2019年は、台風直撃で中止、リベンジを目指した2021年も新型コロナウイルスの影響により断念せざるを得なくなり、2023年、やっとの思いで実現されることとなりました。
私たち現役ワグネルは、第3ステージにて、指揮:原田太郎先生、伴奏:濱野基行先生により「男声合唱とピアノのための『詩人の恋』より」(作詞:H.ハイネ、作曲:R.シューマン、編曲:佐渡孝彦)を抜粋演奏いたしました。この曲は、5月6日に開催された第72回東京六大学合唱連盟定期演奏会において、原田先生の指揮で演奏する予定でしたが、先生の体調不良で叶わず、今回、リベンジマッチという形になりました。練習を始めた当初は、慣れないドイツ語の発音に苦戦していた我々ですが、何度も練習を重ね、R.シューマンのこの名曲を再び大きな舞台で歌い上げることができました。ドイツ・ロマン派の代名詞的存在であり、波乱万丈の人生を送っていたシューマンの創り上げたこの世界観を、今を生きる私たちが表現するのは簡単ではありませんでしたが、大学生なりの感性をもって、シューマンの心の内を少しでも代弁できたのではないかと思います。
第5ステージでは、高校、大学、OB合唱団の合同演奏により「歌劇『タンホイザー』より『大行進曲』『巡礼の合唱』」、「歌劇『さまよえるオランダ人』より『水夫の合唱』」(作曲:W.R.ワーグナー)、「歌劇『フィデリオ』より『囚人の合唱』」(作曲:L.v.ベートーヴェン)を指揮:佐藤正浩先生、伴奏:前田勝則先生・永澤友衣先生で演奏いたしました。非常に有名なこの4曲のオペラを歌いきるのは至難の業でしたが、ここまで壮大なスケールで、迫力のある演奏を成し得たのは、この3団体だからこそであったと思います。歌劇「さまよえるオランダ人」では振り付けも取り入れ、ノルウェー船の甲板で宴会を開き騒いでいる船員たちの様子を表現しました。歌っている我々自身も楽しく、客席の皆様からも笑顔がうかがえました。歌劇「フィデリオ」では、ソロを務めさせていただきました。久しぶりの陽光に喜ぶ囚人たちの心の内を歌声で表現するのは困難でしたが、囚人たちの気持ちになって、その時に感じたままの思いを全面に表現しました。当時の情景を少しでも思い浮かべていただけたのではないかと思います。
歌劇「タンホイザー」は1969年第94回定期演奏会で男声合唱組曲「タンホイザー」が初演され、2017年の第142回定期演奏会では、3団体に加え、ワグネルOBオーケストラとの協演が行われております。複数回の中止を経て、こうして実現された演奏会で「タンホイザー」を再び演奏できたことは、私たちにとってこの上なく嬉しいことであります。「ワグネル在団中に一度はワーグナーを歌って卒業する」という伝統がこれからも受け継がれていくことを心から願っております。
最後になりましたが、ご協力いただいた先生方、OBの方々、ご来場くださったお客様に御礼申し上げます。本当にありがとうございました。我々は第148回定期演奏会を目前に控えております。日々精進してまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。